歯槽膿漏に取り組み30年

【歯槽膿漏を克服するには】

 歯は、歯槽骨(しそうこつ)という骨によって支えられています。 その骨が、歯槽膿漏をひき起こす細菌に侵蝕され、溶けて歯がぐらつき、やがて抜けてしまう病気のことをいいます。
 しかし、病気といっても虫歯(う蝕)とは違い、骨や歯ぐき(歯肉)の老化とも関連しているので、残念ながら完治はできません。 しかし、骨や歯ぐきを健全で清潔な状態に保つことで、症状が改善され、歯が抜けるのを食い止める事が可能です。

【歯槽膿漏の進行過程】

1.歯ぐきが弱かったり、歯の磨き方が悪いと、歯ぐきの内側に食べすが溜まります。それがプラーク(歯垢)になり、やがてカチカチの歯石となって歯に付着し、普通の歯磨きでは取れなくなります。

2.プラークは細菌のかたまりです。 歯石の中には細菌はいませんが、歯石の表面はでこぼこしているので、一旦、歯石がつくと加速度的にプラークの量が増加し、細菌も増えていきます。

3.プラークの中の細菌が繁殖し、増加し続けます。そして今度は、歯を支えている骨(歯槽骨)を、どんどん侵蝕し始めますが、痛みは感じられません。 歯槽膿漏の治療が手遅れになるのは、初期に痛みが出ないからです。

4.どんどん歯槽骨が侵蝕され、膿(うみ)がでて、歯がグラグラし痛んできます。ここまで、歯槽膿漏が進行してしまった場合、速やかに歯を抜かなければ、歯槽骨が溶けるのをくいとめることはできません。 やがて、入れ歯やインプラントを入れる段階になっても、それらを支える土台の骨が、やせて小さくなるので、吸着力の弱い入れ歯や、支える力の弱いインプラントになってしまいます。(この状態になると、骨の移植が必要となり、余分な手間と時間がかかります)

●治療法
◇口の中を掃除しやすい状態に整える◇
第一に、プラークと歯にこびりついた歯石をしっかり取ることです。 次に、細菌に侵蝕され、不規則に破壊された歯と歯の周りの組織を、規則正しく、もとのあった状態に近づけていきます。こうすることで、口の中を掃除しやすい、清潔な環境に保つことができます。
◇歯石取りとブラッシング◇
一般に歯石取りは専用器具を用いて行いますが、歯ぐきの奥の方に入った歯石は、とても取れきれません。そんな場合は、手術により、歯ぐきを切り開き、奥の方に付着した歯石を除去することも必要です。また、自分の歯の状態にあった適切な歯の磨き方(ブラッシング法)を身につけ、プラークがたまらないようにします。
重症の歯槽膿漏の治療には、3ヶ月〜半年の期間が必要です。歯石取りや歯石除去の手術行った後、歯ぐきの自然な治癒力を観察しながら、治療を進めていかねばなりません。「なかなか歯が入れてもらえない」という懸念が起こるかもしれませんが、我々医師も「早く次のステップに」という気持ちを抑えて、歯石取りとブラッシング指導に取り組んでいます。歯槽膿漏は、虫歯の治療以上に、患者さんの“やる気”と協力が必要です。よろしくお願いします。

歯槽膿漏の自己テスト
◇あなたの歯ぐきは健康ですか?「はい」は得点です。
1 起床時に口の中がネバついて不快感がある(2点)
2 歯ぐきがむずむずして不快(2点)
3 歯みがき時、かたいリンゴをかじった時、歯ぐきから出血する(5点)
4 歯ぐきが赤く腫れて出血しやすい(5点)
5 歯の根が露出し、知覚過敏になりやすく、水がしみやすい(10点)
6 口臭がある(5点)
7 歯と歯の間に食べ物が入りやすい(10点)
8 歯ぐきが腫れ、膿(うみ)がでて時々痛む(20点)
9 歯がグラグラ動き、物がよく噛みにくい(30点)

合計 点  
0〜4点 まずまず健康
5〜19点 要注意!検診を
20点〜 大至急治療を!
(歯科医師会資料参考)

【口の中の劇的リフォーム歯槽膿漏回復術と歯肉再生】

歯槽膿漏は歯垢(歯のアカ)・歯石が原因なのです。歯垢や歯石がたまらないように、こまめに歯磨き(ブラッシング)をすれば良いようですが、ただ磨くだけでは限界があるのです。それは丁度そうじをしても散らかり、汚れてしまう部屋と同じです。
テレビなどで掃除をしても汚れる部屋をリフォームで劇的に住みやすい部屋へと改善する番組がありますが、当院の歯槽膿漏治療法はそれと同じです。
歯石は、歯と歯ぐきの境目につきますが、実は目に見えない所にはびこるカビのように、歯石が歯ぐきの奥深くにも、ぎっしりとこびりついているのです。歯石が、一旦歯ぐきの奥につき始めると、歯石に阻まれて歯は歯ぐきにピッタリ密着できなくなり、その隙間に次々に"食べかす"や雑菌が溜り、歯石がさらに大きくなり、歯槽膿漏の原因へと変わっていきます。この悪循環を断ち切るのが当院のリフォーム"歯槽膿漏回復術"です。歯の下の骨に付着している特殊な膜を利用して歯肉を再生することに成功しました。
この再生歯肉は、従来と比べ歯に接着しやすく、深いすき間を作りません。つまり、ゴミ(歯石)のたまる場所をなくす事で、汚れにくい清潔な環境に、口の中をリフォームできるのです。しかし、この方法は手術時間が通常の2倍以上かかり、自費治療としている場所が多いです。が、当院では、全て保険治療の範囲内で行います。治療歯数は2500を超えました。

歯肉再生術は、保険では認められず、保険点数も低くおさえられていましたが、H18春の点数改正では、増額が認められました。医療費が減額している中で、保険に導入、増額になるのは、驚異的な事です。15年前から行ってきた当院の治療法が、公的な場で支持された事を、せん越ながら、非常に自負しております。

【レーザを利用した軽度の歯槽膿漏治療】

膿漏の予防は、歯石を付着させないことです。歯石は、軽石のような物で、表面がザラザラしており、歯石の表面につく食べカスの中で細菌が繁殖します。その細菌が、歯を支える骨をとかし、歯ぐきに炎症を引き起こします。歯槽膿漏は、このような細菌が100%原因となっています。だから、日頃から口の中は、細菌だらけである事を意識してブラッシングを心掛けたいものです。が、完璧なブラッシングは困難なので、我々歯科医は、「4か月に一度は、是非歯のそうじを」と勧めている訳です。
しかし、困った事に歯石を鍛念にとると、「痛いっ」と患者さんに不評なのです。この時、少し深めの場所にある歯石は、麻酔をうち感覚を鈍らせてから、歯石とりを行います。 歯ぐきに付着していた歯石をとりさると、冷たいものがしみて痛いと感じる事がよくあります。歯石というカバーがなくなった事で、冷たさや熱さなどを過敏に感じとってしまうのです。そこで、レーザーを歯にあて、歯質を強化し、歯の回りに巣くう細菌を死滅させます。当院のレーザーは、多種ある中で世界初の厚生省薬事許可を受け、痛みも副作用もありません。歯ぐきの深い所に付着した歯石は、前に述べたような"リフォーム術"によってとり去るしかありません。とも角、歯槽膿漏をひきおこす歯石は、なんとしても、取り去らねばならないのです。

【歯槽膿漏とインプラント】

 歯槽膿漏で、残っている歯がもろくなっているのに、膿漏を治療しないでインプラントを埋め込むとインプラントに負担がかかりインプラントが抜けてしまいます。
 インプラントをする方の中には、歯槽膿漏で歯がぐらついている方が多いので、まず、他の残っている歯を健康な状態に改善しなければなりません。
 他の残っている歯や骨を、いかに健康な状態に保っているかが、インプラントを長持ちさせる秘訣なのです。インプラントには、歯肉や骨の再生・移植などの高度な歯槽膿漏治療の技術が、必要不可欠と言えます。
 当院では、インプラントの先進国北欧およびアメリカで会得した画期的な手術法で歯槽膿漏治療に成果を上げています。

【歯槽膿漏治療における各種手術方法の紹介】

1.歯肉切除術
 歯肉を切除することにより、単に、歯肉ポケットを減らす方法。膿漏が比較的軽度な場合に行いますが、歯周ポケットが再発しやすい症例もあります。
2.歯肉掻爬術
 歯肉を切り開き、中の方にこびりついている歯石をかきだします。
3.根分割保存法
 歯の根っこ(根)は2〜3本あり、膿漏がひどく抜歯しなくてはならない場合、行います。1本の歯のうちの、膿(うみ)がひどい根を、分割して抜去し、良い根だけを残す方法です。
4.歯肉移植術
 悪い歯肉を、良い健全な歯肉に置き換える方法です。
歯肉には、付着歯肉と遊離(可動)歯肉があり、遊離歯肉は歯ぐきの表面に、付着歯肉はその下にあります。膿漏が進むと、付着歯肉が減り、遊離歯肉だけが残ります。遊離歯肉は“ぶよぶよ”しており、歯やインプラントの周囲が遊離歯肉だけになると、歯周ポケットができやすく、細菌が繁殖しやすい状態になってしまいます。もちろん、歯を支える歯ぐきの力も低下します。
一旦、消滅した付着歯肉は、再生できません。そこで、自分の口の中の歯肉を切除し、移植します。2ヶ月程で、移植した部分が固まり、歯やインプラントを支えるに足る歯肉が形成されます。
5.歯肉再生療法
 歯ぐき(歯肉)の質が劣化しているため、1の歯肉切除術を行っても、歯周ポケットが再発する恐れがある場合行います。
1と同様に、歯石をかきだし、そのまま閉じると、歯の周囲は劣化した歯肉で覆われるため、歯周ポケットが再発し、歯石が付着しやすく膿漏は再度進行してしまいます。
そこで、劣化した歯肉が歯を覆わないよう固定し、生体の自然な復元力によって、歯肉を再生させる療法です。再生した歯肉は、歯への“ひっつき”がよく、確実に歯周ポケットを減少させます。手術時間は、1の3倍ほどかかり、特殊なテクニックを必要とします。
歯槽骨(歯肉の下にあり、歯を支えている)の整形も同時に行うことができます。膿漏で失われ、不揃いになった骨を、本来の形態に近づけます。
6.GTR法(骨欠損が少ない場合)
 膿漏で溶けた骨(歯槽骨)を再生させる方法です。
膿漏がひどく、歯槽骨が溶けてしまった場合、5の歯肉再生療法を行い、歯周ポケットを減少させても、歯を支える土台が弱く、歯は充分に機能しません。溶けてしまった歯槽骨を再形成させるには、歯肉が歯の周囲を覆わないように、歯の根っこから歯肉を離しておかなければなりません。
歯肉の復元力のほうが、歯槽骨の復元力より強く、歯槽骨の再形成を妨げるからです。
手術により歯石を除去した後、生体親和性のある膜を歯肉と歯槽骨の間に置き、歯肉の急加成長を防ぎます。すると、歯槽骨の付着繊維がゆっくりと成長し、歯槽骨が再形成されます。
骨の自然な復元力を促すため、4ケ月程、日数を要します。
7.骨移植術(骨欠損が多い場合)
 膿漏により、やせて小さくなった歯槽骨に骨を移植し、インプラントや入れ歯の土台を作る方法です。
移植骨には人工骨と自家骨(本人の骨)があります。

1〜7まで治療法を説明しましたが、膿漏は1つの治療法で対処できるというものではありません。
5と4、5と6、5と7など各治療法を併用して治療を進めます。
「切除」「移植」という言葉から、大変な治療法というイメージを受けられたかも知れません。
膿漏も初期の段階なら、歯の表面を掃除するだけで手術をしなくてもすみます。が、ある段階を超えると、手術による積極的な治療が必要になります。
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